DenchuLab.2017 〜旧平櫛田中邸のアトリエを新たな創作・交流の場に〜
DenchuLab(デンチュウラボ)は、日本の近代彫
上記事業の支援アーティストに採択頂き、制作展示を実施しました。
「田中邸を纏う」Get into Denchu
人のからだを中心に、その周辺を覆うものとして衣装と建築には多くの共通点類似点があります。衣服のシルエットは建築物の大きさ、部屋の形のようです。釦やファスナーの着脱構造・開閉部分は家の扉や窓。布の模様は壁や障子紙の柄のようです。田中邸を訪ねた際に印象に残った、入り組んだ間取り、窓の格子、窓ガラスの凹凸が成す模様などをデザインに落とし込み田中邸を『纏う』(=get into)試みをします。普段は舞台裏となる制作過程の記録や、過程で派生する品々また出来上がった衣服の試着、販売もしました。
■リサーチ
田中邸の成り立ちや、そこでの暮らしぶりをインタビューや文献から調べると同時に、平櫛田中氏の彫刻作品を小平の美術館で彫刻作品を観るなど「生活者」として、また「彫刻家」として平櫛田中がどんな生き方をしていたかを知っていくところから始めました。
■模様の収集
①建物で特に印象に残ったのは、現代にあまり見ない装飾的なガラスでした。フロッタージュの手法を用いて家の凹凸を画用紙に写し取る。
②建物そのものはあまり装飾がなく、その分2階ベランダ部分を支える金具に施された唐草模様や、スイッチプレートの花紋がとても印象に残りました。
③母屋のサンルームは娘さんの療養のために後から作られたもので、庭に面した心地よい空間。そこから見える庭の植物をスケッチしました。
他にも、柱の木目や石畳、障子紙の梅模様など、日を経るにつれて様々なものが模様として目に飛び込んできたが結局上記の3パターンで実際の生地を作ることにしました。
■シルエット
衣服の前提として、日々使われる続ける田中邸の在り方のように、日々の生活で使うことのできる服を作る、ということを前提としてデザインを進めることにしました。
■付属(釦)
スイッチプレートの花紋が珍しく、今の家には見られない装飾。パッと見た瞬間に「これが釦だったらかわいらしいだろう」と思い、石膏型を取り、3Dスキャナー、3Dプリンターなどを使い、同型でサイズ違いのボタンを作成し、服に使用しました。
■展示
「パタンナー」という仕事は、服飾デザイナーや縫製に比べて、あまり知られていないように感じていました。衣服(作品)が出来るまでの工程を、映像、制作過程の仮縫いなどの過程物を展示することで視覚化。特に映像に関しては「田中邸アトリエ」での制作過程と「自宅アトリエ」「インタビュー」で構成されいます。平櫛田中氏が制作したアトリエがあるように、自身も自宅にアトリエを構えているので、「協演」するような感覚もありました
■オリジナルテキスタイル
本作品の軸となる「建築を纏う」ことを大きく3軸で構成しています。その一つが建物から模様のオリジナルテキスタイル。二つ目は建物の構造、三つ目は家の歴史・物語を、それぞれ纏うことです。
オリジナルテキスタイルを作るにあたり、株式会社OpenFactory様にご協力頂き、クリエイター支援プロジェクトとして取り上げて頂いた。1メートル単位から、手描きや写真など様々な画像をプリントして生地にしてもらうことができる。今回のDenchuLabの企画以前から、こういった技術があることは知っていたのですが、作品に対する技術の必然性がピタリと一致したのははじめてでした。これまでは、衣装を作る際は徹底的にアナログに、細かいパーツを繋いだり、染色をするなど、新しい技術に縁遠いことをしていました。技術が発想と結びつくことで、強度の高いものが生み出されることを実感したとこがとても印象的でした。
■建築と衣服の類似
本企画の原点である「服と建物って似ているな」という漠然とした考えは、身体を軸として、その周辺を包むもの、というざっくりとした認識から始まりました。衣装を作っていると、衣装の先端だけでなく、それを包む空間も一緒に変化しているように感じます。そこに何か科学的な根拠があるわけではなく、そう感じることがとても多いのです。
リサーチを経て印象に残ったのは、建物も衣服同様、人間の体の大きさや所作を基準につくられているという点です。例えば障子の桟の幅や長さは、障子紙合わせて作られている。障子紙は人が漉いていて、両腕で漉く器具を動かせるそのサイズになっている。というお話です。話が戻りますが、「建築を纏う」二つ目の軸となる構造は、田中邸が建増しを繰り返して今の形に至っているという経緯から、襟と袖が「建増し」出来る服に反映されています。企画の当初は「模様」「構造」の2軸しか想定していませんでした。
リサーチを進めていくうちに、三つ目の軸となる、建物が湛えている物語が現在の風景と共に色濃く立ち上がってくるのを感じました。1月の冷え込む木造家屋にも関わらず、ひときわ暖かく日の差し込むサンルームと、そこで療養をしていたという娘さん。平櫛田中氏が自身の着物だけでなく、娘さんの着物も近所の方に仕立ててもらっていた。製作中は作務衣を着ていた。という人間味あふれる話の数々が、衣服のデザインに流れ込んできました。この「物語」がデザインに入ってくることは当初予想をしていなかったので、自身が一番意外に感じるのと同時に、田中邸を通して、時間を超えて、ここに暮らしていた人々の肌に触れたような感覚になり非常に嬉しかったです。
■最後に
会期後半に、平櫛田中氏のお孫さんであり小平 平櫛田中美術館館長の平櫛弘子さんに作品をご覧いただく機会を得ました。多くコンセプトなどお伝えする前に、展示されている服をご覧になって「こういうモンペ、履いてましたよ」「作務衣を着て仕事してました」「母の着物は寝たきりでも楽なように、こんな風に(ワンピースを指さして)衿が細くて、足が不自由だったから、裾が広がっていたんです」という言葉を頂きました。まるで作品に込めた思いの答え合わせをしてもらっているようで、不思議な出来事でした。
本企画にあたり、たくさんの方にご協力頂きました。この場をお借りして改めて、心から御礼申し上げます。有難うございました。
DenchuLab.2017
2018年2月23日〜3月4日
旧平櫛田中邸
[主催]でんちゅうず(NPOたいとう歴史都市研究会、一般社団法人 谷中のおかって)
[協力]井原市、平櫛弘子氏、東桜木町会、東京藝術大学大学院保存修復建造物研究室
[助成]アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)
[生地協力]株式会社 OpenFactory:Happy Fabric クリエーター支援プロジェクト採択
[技術協力]佐藤 成行(ボタン3Dデータ作成)
[製作・設営協力]坂本 のどか
[撮影・編集]野本 直輝
[会場写真]前澤 秀登 [モデル]谷口 界